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NTTドコモと富士通による「かんたん携帯」販売差し止めの狙いとは?
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」「できるポケット LISMOですぐに音楽が楽しめる本」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。「ケータイならオレに聞け!」(impress TV)も配信中。asahi.comでも連載執筆中


 NTTドコモは17日、「らくらくホン プレミアム」の発表会に際し、ソフトバンクが販売する「かんたん携帯 821T」の製造、販売等の差し止めを求める仮処分命令の申し立てを行なったことを明らかにした。携帯電話業界では過去に例のない異例の申し立てであり、業界内だけでなく、ユーザーからも高い関心を集めている。今回のNTTドコモの申し立ての狙いと影響について、考えてみよう。


らくらくホンとかんたん携帯

 ここのところ、三菱電機の端末事業撤退やソニー・エリクソンの事業見直し報道など、NTTドコモはここのところ、開発メーカーと絡むニュースが多い。そんなニュースの中でも注目を集めたのが今回のらくらくホンに関する申し立てだ。

 NTTドコモと富士通は、ソフトバンクモバイルと東芝に対して、不正競争防止法に基づき、東芝が製造し、ソフトバンクモバイルが販売する「かんたん携帯 821T」の製造、販売等の差し止めを求め、東京地方裁判所に仮処分命令の申し立てを行なった。もう少しかみ砕いて言えば、ソフトバンクが今月から販売を開始したかんたん携帯821Tは、NTTドコモの販売する「FOMAらくらくホンIII」(らくらくホン最新モデルは昨年8月に発売された『FOMAらくらくホンIV』)に類似した商品であるため、製造や販売をしないように求めた、ということだ。会見の内容については、すでに本誌記事でも取り上げられているので、あまり詳しく説明しないが、今回の会見にはいくつか釈然としない点がある。


NTTドコモの「FOMAらくらくホンIII」 ソフトバンクモバイルの821T
NTTドコモの「FOMAらくらくホンIII」 ソフトバンクモバイルの821T

 まず、会見の質疑応答でも何度となく、質問が出ていたが、NTTドコモ及び富士通として、具体的にどの部分が似ていて、どの部分を問題視しているのかが明らかにされていない。NTTドコモと富士通によると、今後、ソフトバンクモバイル及び東芝と争っていくため、今の段階では手の内を明かせないとのことだ。質問をしてもスクリーンに映し出されたFOMAらくらくホンIIIとかんたん携帯821Tを指し、「写真を見てもわかるように、1/2/3ボタン(ワンタッチボタン)や方向キー、メニュー体系など、携帯電話の顔とも言える部分が酷似している」と述べるにとどまっている。

 現在、両機種を手元に置いているわけではないので、確定的なことは言えないが、発表会や記事作成などのために、両機種を試用した印象(一時的なものだが……)から言えば、両機種とも初心者を強く意識したモデルであるため、確かに使い勝手やデザインが似ていると言えるだろう。しかし、こうしたシニア層を意識した端末は、ソフトバンクに限らず、各社とも取り組んでおり、少なからず似通っている。


 たとえば、auは「簡単ケータイ」というシリーズで、パンテック製「A1406PT」や京セラ製「A5528K」などを販売しており、かつての「ツーカーS」の流れを継承した「簡単ケータイS A101K」もラインアップしている。これらの端末では1/2/3ボタンが採用され、日本語表記によるキープリント、大きなフォントでのメニュー画面などが採用されている。文言に違いはあるが、「電話帳使う・履歴を見る」「メールを使う」のように、機能を言葉で表現したリスト形式のメニュー画面については、こうしたかんたん系の端末だけでなく、通常端末を簡単に使うモード(シンプルモードやスマートモードなどと呼ばれることが多い)でも採用されている。同じNTTドコモのラインアップでも今春、LG電子製端末「L705i」が発表されており、ボタンの数こそ違うが、ディスプレイ下にワンタッチキーを装備している。


2006年9月に発売された、auの「A1406PT」 2007年8月発売の「A5528K」
2006年9月に発売された、auの「A1406PT」 2007年8月発売の「A5528K」

 これらの端末の多くは、やはり、NTTドコモと富士通のらくらくホンの成功を受けて、各社なりの工夫をしてリリースしてきた端末と言えるだろう。今回の821Tもそのひとつになるわけだが、その他の事業者の端末も含め、従来の端末は問題がなく、今回の821Tが問題であるとするなら、NTTドコモとして、明確な基準点を示すべきだろう。ちなみに、余談だが、821Tには、らくらくホンにない新しい取り組みとして、操作を学ぶチュートリアルが用意されている。

 また、会見では「お客さんが間違える可能性がある」といったコメントも聞かれたが、ドコモショップやソフトバンクショップなどのキャリア系の販売店であれば、そもそも並んで売られていることはないので、間違えることはないだろうし、家電量販店でも販売コーナーが分かれているケースが多いため、混同することは少ないだろう。もしかしたら、一部の併売店などが意図的に「ソフトバンクから『らくらくホン』が出ました!」くらいのPOP広告を出すかもしれないが、それは販売店の問題であって、必ずしもソフトバンクや東芝が責められることではなさそうだ。


どの「似ている」は許されるのか?

 FOMAらくらくホンIIIとかんたん携帯821Tが似ているか否かという点については、申し立てが行なわれたので、その判断に注目するしかないが、「似た端末」という点では、これまでの製品で気になることも多い。

 たとえば、今回、ソフトバンクがパナソニック モバイルコミュニケーションズ(以下、Panasonic)からの供給を受けて販売を開始した「920P」はどうだろうか。1月のソフトバンクの発表会のレポートでも触れたが、トップパネルの処理、[MULTI]キー(920Pでは[メディアジャンプ]ボタン)の位置が違う程度で、ボディを構成するパーツの金型も大半が共通ではないかと思われるほど、「酷似」している。この点について、17日の会見でも質問をしたが、P905iと920Pは同じ開発メーカーの基本技術から作り出されている商品なので、「FOMAらくらくホンIIIとかんたん携帯821Tが酷似していることとは別」という解釈だという。


2006年11月発売の「911SH」で、「S!おなじみ操作」のアイコンメニューを変えた例

2006年11月発売の「911SH」で、「S!おなじみ操作」を使ってアイコンメニューを変えた例
 では、東芝がNTTドコモに端末を供給していないメーカーだから、いけないのかというと、そうではないという。どのメーカーであれ、対応は同じことで、今回の商品はあまりにも似すぎているから、申し立てをするに至ったのだそうだ。

 また、今回の会見では、両機種のユーザーインターフェイスの類似性も指摘されていたが、ソフトバンクでは他機種のユーザーインターフェイスを再現できる「S!おなじみ操作」というサービスを提供している。さすがに、グラフィックまでは同じではないが、少なくともほとんどの機能アイコンについては、オリジナルの機種とほぼ同じ順に並んでいる。類似性や意匠権などを主張するのであれば、こちらの方が問題があるように見えるのだが……。

 さらに、ケータイの世界において、類似性をどこまで強く指摘できるのかという声も多い。というのもケータイの世界では、端末だけでなく、機能やサービスなどについても「似た」ものが数多く存在する。というより、各事業者が相互に機能やサービスを取り入れながら、改良を続けてきた背景があり、それが今日の日本のケータイの進化につながっているからだ。

 たとえば、現在は各社で利用できるケータイのメールサービスは、元々、旧デジタルホン及び旧デジタルツーカーが提供を開始した「スカイメール」が始まりだが、NTTドコモはiモードのサービス開始時にiモードメールの提供を開始している。コンテンツサービスとしてのiモードの成功を見て、他社のEZwebやJ-スカイなどのサービスを開始している。旧J-フォンとシャープでが生み出した「カメラ付きケータイ」「写メール」は、今や日本どころか、世界中で使われるほど、普及している。


 端末やサービス以外にも目を向ければ、基本使用料に無料通話分を含んだ料金プランの先駆けは確かJ-フォンだったはずだ。パケット通信料の定額制は読者のみなさんもよくご存知の通り、auの「EZフラット」(現在の「ダブル定額」)が発端だ。最近では3社とも家族間無料通話サービスを提供することになったが、条件こそ違え、最初に手掛けたのはソフトバンクの「ホワイト家族24」だ。

 特に、一昨年のMNP開始時には、MNPによる移行ユーザーが比較したとき、他社サービスにひけを取ることがないように、テレビ電話からデコメール、GPSサービス、音楽再生機能など、さまざまなサービスや機能について、各社とも横並びに充実させた経緯もある。

 もし、今回の申し立てを機に、ケータイの世界で「似た」ものを排除していくということになれば、他社の実現した機能やサービスを取り込むことによるケータイの進化は期待できなくなってしまう。日本のケータイ業界を代表し、ひいては世界のケータイ業界にも影響を与えるほどの立場にあるNTTドコモが取るスタンスとして、今回の動きが適切だったかどうかは疑問が残る。もし、そういう意図がないというのであれば、やはり、会見の段階で、何が似ていて、どうダメなのかの明確な基準を示すべきだろう。

 決して、「ケータイ業界だから、真似てもいい」というつもりはないが、本来ならば、もっと当事者同士で話し合い、話がまとまらなかった段階で、今回の申し立てのような行動に移すべきだったのではないだろうか。会見では「ソフトバンクモバイルに警告をしたが、満足のいく回答が得られず、今回の措置に至った」としているが、どの程度の警告を何度くらいしたのかといった情報は明らかにされていない。


申し立ては本当に進化に影響を与えないのか

17日の会見で説明を行なったNTTドコモ執行役員 プロダクト&サービス本部 プロダクト部長の永田 清人氏

17日の会見で説明を行なったNTTドコモ執行役員 プロダクト&サービス本部 プロダクト部長の永田 清人氏
 ところで、今回の申し立てにあたり、かんたん携帯821Tの開発に、人的なリソースの流出や人材の争奪戦があったのではないかという指摘が伝えられている。また、一部のメディアには、従来のらくらくホンを担当した開発者が関わっているといった情報も掲載されている。

 こうした個人に関わる情報をメディアに掲載してしまう姿勢には、非常に疑問が残るが、少なくとも筆者の知る限り、今の時代、ケータイ業界に限らず、転職や移籍はそれほど珍しいものではない。メーカーで商品企画を担当していた人物が他メーカーに転職していたり、キャリアに在籍していた人が気がついたら、メーカーでまったく別のことを担当していたといったこともある。ただ、1人の担当者が移籍したからと言って、そんなに簡単に他社で同じ端末やサービスが作れるものでもないだろうし、ましてや、どのような端末を開発するか、ラインアップしていくかは、メーカーや事業者の判断によるものだ。

 むしろ、今回の騒動で気になるのは、今後の日本のケータイ業界への影響だ。今回の申し立てに伴い、他事業者や他メーカーで製品化されているコンセプトの端末や機能、サービスなどの対抗商品をリリースする際、少なからず躊躇してしまうことがあるのではないだろうか。判断によっては、せっかくの良い技術なのに、メーカーが開発を諦め、ユーザーが利益を享受できないといったことも起こり得る。もし、そうなったとすれば、それはユーザーにとって、業界にとって、不幸なことだ。

 この点について、会見で質問をしてみたところ、NTTドコモの永田氏からは「新しい技術の芽が摘まれる心配はない。新しいことにチャレンジする人を大事にする取り組みだ」という答えが返ってきた。もし、本当にそうであるなら、メーカー間や事業者間でしっかりと話し合い、ユーザーが余計な不安を持たないように、きちんと情報を明らかにしていくべきだろう。少なくとも今回の会見で明らかにされた内容では、十分な説明ができていないように見える。ケータイはキャリアやメーカーの創意工夫にあふれ、ユーザーの声がよく反映される商品であり、事業者間やメーカー間の自由な競争があったからこそ、急速に進化を遂げてきたはずだ。今回の騒動によって、その進化にブレーキを掛けるようなことのないように願いたい。



URL
  NTTドコモ ニュースリリース
  http://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/page/080317_02.html
  富士通 ニュースリリース
  http://pr.fujitsu.com/jp/news/2008/03/17-1.html

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(法林岳之)
2008/03/21 16:13

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